研究の背景

優雅に泳ぐ魚や美しく育った水草でレイアウトされた水景はアクアリウムの醍醐味です。しかし、きれいな水景を台無しにする生き物がいます。それは藻類です。このブログを読んでいる方は、間違いなくアクアリウムで発生する藻類に困った経験があるのではないでしょうか。飼育容器の壁面、レイアウトした流木や岩、あるいは水草の表面など藻類が付着すると景観を損ね、除去する掃除も大変な手間がかかってしまいます。

一方で、アクアリウムの飼育環境は非常に多様です。飼育容器ごとに発生する藻類の傾向も異なります。加えて、アクアリウムに発生する藻類の研究事例はなく、どのような環境因子によって優占する藻類が選択されているのか明らかになっていません。

飼育用品メーカーとして、藻類を防除する有効な手段の検討を目的に、アクアリウムに発生する付着藻類の研究を行いました。まずは近年人気の高まっているメダカの飼育容器を対象に調査を実施しました。なお、本研究は株式会社Seedbankと共同研究を行い、成果は20199月に日本水産学会秋季大会にて発表を行いました。

藻類とは

アクアリウムでは一般的にコケと呼ばれていますが、本来のコケは植物に分類されており、アクアリウムで問題になるのは藻類という生き物になります。藻類とは、植物以外で光合成によって酸素を出す生物です。単細胞生物、多細胞生物、真正細菌など、とても多様な生き物のグループになります。代表的なものだと、飼育容器の壁面などに茶色く広がっていく珪藻(茶ゴケと呼ばれている)、糸状や斑点状に付着し、場合によっては飼育水が緑色になるほど増える浮遊性のものがある緑藻(緑ゴケやアオコと呼ばれている)、飼育容器底面で海苔状に広がっていく藍藻などがあります。

珪藻 緑藻

 

試験方法

本調査は20191-9月にかけて、近畿圏を中心に50本の屋内でメダカを飼育している容器からサンプリングを行いました。40×15×10mm程度のメラミンスポンジを用い、容器の内側12か所(容器壁面前後左右4か所において、それぞれ水面付近・水深中央付近・底部付近の3か所)からサンプルを採取しました。併せて水温、光環境、水質(アンモニア、亜硝酸、硝酸、リン、シリカ、pH、全硬度、塩分濃度)の測定、飼育容器の設置時期や水替えの頻度など飼育状況の聞き取りも行いました。持ち帰ったサンプルは24時間以内に光学顕微鏡を用いて観察を行い、同定を行いました。

 

結果

サンプリング事例をいくつか紹介します。

〇サンプルNo.1

設置期間:約6か月

水替え頻度:なし

ガラス面の掃除頻度:なし

※足し水を適宜実施

メダカの追加頻度:少ない

 

 

〇サンプルNo.8

設置期間:約8か月

水替え頻度:なし

ガラス面の掃除頻度:なし

※足し水を適宜実施

メダカの追加頻度:4か月前まで頻繁

 

50本の屋内メダカ飼育容器に出現する藻類を調べた結果、最低でも32タイプを確認しました。

写真:観察された藻類の顕微鏡写真

表:観察された藻類と出現率

光や温度などの環境因子と藻類のタイプ数の関係を調べてみましたが、いずれも相関関係は見られませんでした。9タイプ以上の藻類が確認された容器を見ると、頻繁に別の容器からメダカが入ってくる、もしくは屋外で汲み置きした水を使っているなど、藻類が持ち込まれる可能性が高い環境にあることが分かりました。一方でpHのグラフを見てみると、pH6.0以下の酸性傾向にある環境でも出現している藻類がありました。この容器の飼育環境を見ると、水替えが行われていないもしくは水替えの量が少ない、ヒーターを使っていて冬期に低温にならない、水槽設置時期が1年以上ということが分かりました。外部からの混入機会が少なく、pHが低く、1年中一定の水温にあることなど、その環境を得意とする藻類が優占する傾向にあると考えられます。

 

19:環境因子と確認された藻類のタイプ数

 

 

写真:pHが低い容器で優占している藻類の顕微鏡写真

 

まとめ

今回の調査から、メダカ飼育容器に現れる藻類は多様であること、環境に応じて生育できる藻類のタイプが選択されている可能性あること、藻類の混入機会の多さによって、多様になっている可能性が明らかになりました。これまでメダカを始めとしたアクアリウム容器に発生する研究は行われておらず、今回の調査で同環境に出現する藻類の一端を知ることができました。今後は、同一飼育容器で出現する藻類の変遷を追跡調査、遺伝子同定の実施、藻類の種数と細胞数との関係、キンギョや熱帯魚など別の魚種を飼育する環境で同様の調査などを行い、アクアリウムと藻類の関係を明らかにし、効果的な防除商品の開発などに役立てたいと考えています。新たな研究成果が出ましたら改めてご報告いたします。

 

参考資料

・小林弘 他(2006:小林弘 珪藻図鑑 第1,内田老鶴圃

・田中正明(2002:日本淡水産動植物プランクトン図鑑,名古屋大学出版会

・月井雄二(2010:原生生物ビジュアルガイドブック淡水微生物図鑑,誠文堂新光社

・山岸高旺(1999:淡水藻類入門 淡水藻類の形質・種類・観察と研究, 内田老鶴圃

 

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