概要

アクアリウムではコケと呼ばれる様々な藻類が出現し、水槽の景観を損ねる原因となっています。

 ジェックスラボラトリーは、藻類を防除する有効な手段を検討するヒントを得るため、モデルケースとして金魚飼育水槽を用い、水質の変化および出現する藻類の種・変遷を明らかにする調査を行いました。

                図1.藻類が出現した金魚飼育水槽

 その結果、飼育水中の亜硝酸濃度が高い期間(水槽立ち上げ7-14日頃)には茶ゴケと呼ばれる珪藻類が優占し、硝酸濃度が高い期間(水槽立ち上げ14-28日頃)には緑ゴケと呼ばれる緑藻類が優占しました。また、1ヶ月間の飼育期間中に緑藻5種、珪藻5種の計10種の藻類が確認されました。
確認された緑藻・珪藻はいずれも淡水域の自然界に広く生息する種で水道水、大気中、生体による持ち込み等の混入経路が考えられます。

今後は本研究の情報を元に、アクアリウムにおける有効な藻類の防除商品の開発が期待されます。

本研究は、令和6年度日本水産学会春季大会にて発表しました。

 

背景

 アクアリウムにおいては、水槽内でのコケと呼ばれる藻類の発生が多くの飼育者にとって負担になっています。水槽の壁面に付着したり、飼育水を緑色にすることで景観を損ね、それを除去する手間がかかるためです。現在、アクアリウム用に藻類を防除する商品は販売されていますが、利用者によって効果の感じ方にばらつきが見られており、より有効な防除方法の確立が求められていますが、アクアリウム水槽に出現する藻類に関する研究報告はまだまだ少ない状況でした。そこで、藻類を防除する有効な手段を検討するヒントを得るため、モデルケースとして金魚飼育水槽を用い、1ヶ月間の水質の変化および出現する藻類の種・変遷を明らかにする調査を行いました。

 

研究手法と成果

 ワキン型のキンギョ(Carassius auratus )4匹を、外掛け式簡易ろ過装置を設置した水容量10Lの水槽で28日間飼育し、1週間に1回メラミンスポンジを用い、水槽の内側3カ所(水槽前面中央、左側面中央、底面中央)から藻類のサンプルを採取しました。また、併せて水温、水質(pH、濁度、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、リン酸態リン)の測定を実施しました。また採取した藻類のサンプルは、光学顕微鏡を用いて観察・同定を行いました。

※飼育試験は26℃環境、光環境 明:=12時間:12時間で実施

※飼育期間中、水換えは実施しなかった

※上記飼育試験を計5回実施

 

結果、飼育期間中に出現した緑藻はMychonastes(2)Scenedesmus属(図3)、Monoraphidium属(図4)、Ankistrodesmus属(図5)、糸状性緑藻(図6)の5種類が確認されました。

      図2. Mychonastes属                 図3. Scenedesmus

4. Monoraphidium属       図5. Ankistrodesmus属    図6. 糸状性緑藻

 

2. Mychonastes属 淡水や汽水域、土壌に広く一般的に生息している緑藻です。

3. Scenedesmus属 和名ではイカダモと呼ばれる浮遊性の緑藻です。水田や池、沼などに広く見られ、土壌にも生息しています。

4. Monoraphidium属 淡水域や土壌に広く一般的に生息している緑藻です。水中では浮遊、もしくは植物等の表面に付着しています。

5. Ankistrodesmus属 淡水域や土壌に広く一般的に生息している緑藻です。水中では浮遊しています。

 

また、珪藻はSellaphora(7)Gomphonema属(図8)、Gogorevia属(図9)、Eunotia属(図10)、Nitzchia属(図11)の5種類が確認されました。

 

  図7. Sellaphora属                     図8. Gomphonema

9. Gogorevia属              図10. Eunotia属             図11. Nitzchia

 

7. Sellaphora属 和名はエリツキケイソウ属。淡水や汽水域に広く生息し、泥の表面に付着しています。

8. Gomphonema属 和名はクサビケイソウ属。淡水域に広く生息する付着性の珪藻です。 

10. Eunotia属 和名はイチモンケイソウ属。淡水域に広く生息する付着性の珪藻です。

11. Nitzchia属 淡水域から海域に生息する大型の珪藻で、浮遊性のものと付着性のものがいます。

 

 加えて、水質の変遷と出現する藻類を照らし合わせてみると、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素の増加に伴い珪藻が優占。水槽内の硝化が進み、硝酸態窒素が増加すると緑藻が優占する傾向が見られました。

また水槽内の箇所(前面・側面・底面)間で発生する藻類の種類に大きな違いは見られませんでした。

            図12. 水槽立ち上げ時から1ヶ月間の水質および出現する藻類の遷移

 

今後の展開

 今回の調査から、閉鎖的な環境でも優占して出現する藻類の種の一例を明らかにすることができました。これを踏まえて今後は、藻類の混入経路の特定やこれらの種に対して有効な防除方法の探索を行っていく予定です。