昨今、ペットとして多様な動物が飼育されていますが、飼育する動物の種類によって、幼児期の発達に与える影響は異なっているのではないかと考えられます。そこで、ジェックスラボラトリーでは、中部学院大学　水野友有准教授、岐阜大学　合掌顕教授と共に、共同研究を行いました。

この研究結果は、第19回日本子ども学会学術集会にて発表を行いました。

目的

幼児が身近な動植物と接することは生命の尊さや道徳性を育むために重要です。昨今ペットとして多様な動物が飼育されていますが、飼育する動物種によって、幼児期の発達に与える影響に違いがあるのではないかと考えました。今回、幼児でも飼育しやすい動物であるハムスターと、ヤモリの仲間であるヒョウモントカゲモドキを用いて、実際の保育・教育現場にて調査を行いました。

調査方法

調査対象児は、G県S市にあるA幼稚園の年長児43名（男児21名・女児22名）で行いました。飼育環境について、爬虫類はペットとして流通の多いヒョウモントカゲモドキ（全長約20cm）を、小動物はキャラクターの題材にもなっているゴールデンハムスター（全長約15cm）を選択しました。期間はヒョウモントカゲモドキを2022年5月10日から2022年6月8日まで、ゴールデンハムスターを2022年6月8日から7月8日までとし、2クラスある年長児の教室それぞれに468×310×282mmのケージ（グラスハーモニー450プラス，ジェックス）を設置して、1匹ずつ飼育しました（図1）。

評価は描画法で行い、吉田・水野（2020）を参考にS-HTP法を応用した独自の指標を作成しました。描画は集団検査にて実施し、幼児一人一人にA3用紙を配布、担当保育士が「それぞれの生き物の絵を描いてください」と教示しました。ヒョウモントカゲモドキ飼育前の2022年5月8日と飼育後の2022年6月8日、ゴールデンハムスター飼育前の2022年6月8日と飼育後の2022年7月8日に実施しました。

結果

絵の完成度はヒョウモントカゲモドキが飼育前後とも98%、ゴールデンハムスターは飼育前が98%、飼育後が91%でした（当日欠席があったため）。対象児が描いた絵が図2.3になります。

生き物の描写の視点で比較すると、ヒョウモントカゲモドキの絵は全身を描いている絵が有意に多く、ゴールデンハムスターは顔だけ及び頭足画を描いた絵が有意に多い結果になりました（表1）。また、描かれた生き物の【向き】を比較すると、ヒョウモントカゲモドキは真横及び真上からが、ゴールデンハムスターは正面から描いた絵がそれぞれ有意に多い結果でした（表2）。さらに、付加物（ハート、虹、文字等）が描かれている絵を見ると、ゴールデンハムスターの絵は飼育前に比べ飼育後の方が有意に多い結果となりました（表3）。

考察

以上の結果から、ほぼすべての対象児が絵を完成させていたことから、爬虫類、小動物を題材にしても、描画法による評価が可能であると判断しました。

描画内容では、ゴールデンハムスターは、頭と胴体の区別がヒョウモントカゲモドキに比べて見分けにくく、幼児が注目しやすい顔に意識が集中していると考えられます。また、ハムスターの顔が一番注目されているので、人に近い感覚でハムスターを見ている可能性もあります。一方で、ヒョウモントカゲモドキはほぼすべての絵で全身が描かれており、生き物としての特長をよく捉えている様子が伺えます。さらに描かれている向きを見ると、ヒョウモントカゲモドキはケージ越しに観察している視点（真横、真上）が多く見られることから、観察の対象として接している可能性が考えられます。また、ゴールデンハムスターの絵は、飼育後に付加物（ハートや虹、文字など）が多く描かれ、飼育を通じて愛着が高まり、かわいい絵にしようとしていると思われます。

これらのことから、幼児はヒョウモントカゲモドキ等の爬虫類を観察の対象としてみており、科学的な視点を養う効果が期待できるのではないかと考えています。一方、ハムスター等の小動物はかわいさなどの感覚で接している様子が見られ、情緒的な視点を養うのに最適なのではないかと考えています。

幼児期に生き物と触れあうことの意義は、命の尊厳を学ぶだけではなく、科学的な視点や情緒的な視点を高める部分にもあります。今回の調査で飼育する動物の種類によって、幼児の反応が異なる結果が得られました。実際の家庭や保育の現場で、どのような体験を子供たちにさせたいか、目的に応じて触れ合う動物を選択することが重要であると考えています。

【引用】吉田恵史郎・水野友有, 幼稚園における観賞魚の飼育効果, 日本保育学会73回大会発表論文集（データＣＤ）, 2020.