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研究・開発

有機物分解のメカニズム

湿地帯は【天然の浄化槽】とも呼ばれ、土壌で濾過され集められた陸起源有機物の細片(ほとんどが植物の断片)をバクテリアなどの力を借りて分解し、水を浄化していると言われてきました。
しかし、京都大学農学研究科 豊原治彦先生の研究によって、有機物の分解に関する新たな事実が分かってきたのです。
水槽内の水質浄化にもこの研究で得られた情報が活かせるのではと考え、豊原先生に多大なる協力をいただき、本研究をまとめました。

有機物のゴミの多くはセルロース

植物の細胞の周りはセルロースと呼ばれる一種の糖で包まれています。
セルロースは動物の細胞には存在せず、動けない植物が身を守るために開発した物質です。地球上の有機物の80%はセルロースと言われており、セルロースを分解することは、地球レベルでの重要な化学反応であると言えます。

セルロースはブドウ糖が連続的につながったもので、その意味においてはデンプンと同じです。デンプンは、コメやイモなどの主成分で、エネルギー源として人間の生命維持に欠かせないものです。しかし、同じブドウ糖という材料でてきているにも関わらず、人間にはセルロースを分解することができません。デンプンは分解できるのにセルロースが分解できないのは、ブドウ糖の結合の仕方に違いがあるからです。簡単に説明すると、デンプンではブドウ糖が緩い結合でつながっているのに対して、セルロースでは固い結合でつながっているからです。デンプンを分解するにはアミラーゼ、セルロースを分解するにはセルラーゼという別々の【酵素】が必要となるのです。

バクテリアと土壌の関係

干潟は土壌によるろ過が効率的に行われることから、セルロースなどの有機物分解において重要な役割を果たしています。以前は図1左のようにバクテリアがセルロースを取り込んで、セルラーゼ(酵素)を使って分解していると考える研究者が多くいました。しかし豊原先生の研究で、バクテリアを全滅させた無生物状態の泥が、セルロースを分解できること、その分解は泥に結合したセルラーゼによることが発見されたのです。
また泥を低温保存すれば、半年後でもほとんど分解能力が低下しないことも突き止めました。これは自然界においてバクテリアが体外でセルロースを分解しており、バクテリアが全滅した後でも、泥に結合したセルラーゼは長期間、安定した形で残っている事を示しています(図1右)。

図1「環境酵素説」

図1「環境酵素説」

生物が生きていくためには、栄養分を取り入れ、それを素材にまでバラバラにし、その過程でエネルギーを取り出す(分解)と同時に、分解した素材を材料に体を作り上げていくこと(合成)が必要です。これらの過程は、すべて酵素の働きによるもので、例えばタンパク質を分解する酵素はプロテアーゼ、デンプンを分解する酵素はアミラーゼ、そしてセルロースを分解する酵素はセルラーゼと呼ばれています(図2)。

図2「酵素について」

図2「酵素について」

バクテリアは水槽内の水質維持にきわめて重要です。観賞魚水槽用に様々なバクテリア商品も売られています。特にアンモニアの有害性はよく知られているので、その分解に関わるバクテリアや、最近では嫌気的な条件下での窒素固定細菌なども注目されています。これらのバクテリアの反応も、すべてバクテリアが分泌する酵素によって起こっているのです。

初心者が失敗しやすい水槽の水質悪化の最大の原因は餌のやりすぎにあります。魚の餌は主にタンパク質とデンプンからできており、繊維質としてセルロースを含みます。このうちアンモニア発生につながるのはタンパク質です。図3上に示すように、タンパク質はアミノ酸(20種類ある)が連続的につながったものです。これらはポリペプチドと呼ばれ、アミノ酸同士をつなぐ結合はペプチド結合と呼ばれます。タンパク質が分解されるときは、まずエンドペプチダーゼというプロテアーゼ(酵素)でアミノ酸にまで分解されます(図3下)。アミノ酸の中にはアンモニアの元となるアミノ基(NH2)をもつものがあり(リジンとアルギニン)、これらのアミノ酸からアミノ基が切断されると有害なアンモニアが発生します。

図3「酵素によるタンパク質の分解」

図3「酵素によるタンパク質の分解」

図1で泥に酵素が結合するという事を示しましたが、実は泥の種類によって酵素の結合能力は大きく異なります。豊原先生は日本各地の湿地帯(10種)、陸地(3種)、養殖場底泥(2種)、泥に含まれる主要な標準鉱物(2種)、さらに市販のろ材(5種)について、アミラーゼという酵素の結合の程度を比較しました(図4)。この実験はもともと粘土に結合している酵素を働かなくするため、一旦120℃で20分間加熱した土壌を材料として使用しています。図4を見ると、土壌の種類によって結合能力は大きく異なることなどが分かります。最も高い標茶(しべちゃ)は北海道の釧路近郊にあり、火山灰性の土壌です。豊原先生は標茶の土壌に特に多く含まれる成分を調べ、その結果、アルミニウムが高い酵素結合能力と関連している事を突き止めました。

図4「アミラーゼ吸着能の比較」

図4「アミラーゼ吸着能の比較」

データ提供:京都大学 豊原治彦准教授

これまで水槽ろ過材はバクテリアの住処として多孔質であることが重要との古くからの通説を元に、多孔質素材が用いられてきました。しかし同研究からろ過材の特性としては、多孔質であることに加えて酵素結合能力が重要であることが明らかになったのです。今後は、アルミニウムなどの土壌中の金属成分に注目したろ過材の開発を行う必要があります。豊原先生は環境中に分泌されて土壌に結合し、生物とは独立して分解を行う酵素を【環境酵素】と名付け、干潟のような天然環境だけでなく、水槽のような人工環境においても、環境酵素が速やかな有機物分解に重要な働きをしていると考えています。